糸電話は音が振動で伝わっていることを確かめる実験として,小学校の3先生で学習する「音の性質」や中学校1年生で学習する「音による現象」などでよく使われていると思います.多くの場合,音を伝える媒体は空気ですが,その空気の振動は目には見えません.糸電話では,空気の代わりに糸が音を伝える媒体になってくれることで,可視化できるのです.
私も中学校ではたらいていたころは,この糸電話を本単元の導入によく使っていました.この糸電話を使って,音の正体が振動であることを生徒にもう一度確認させるためです.
しかし,糸電話で会話させたりしながら小学校の学習を思い出させたりするだけでは不十分だと考えます.そこで,登場するのが針金電話です.
糸電話でひとしきり音が伝わることを実感させた後に生徒に聞きます.
「先生はここに針金電話をもってきています.これで会話ができると思いますか?」
針金電話(糸電話の糸の代わりに針金を使っているだけです)
そして,全員に予想とそう考えた理由をノートに書かせます.
全員に挙手で「できる」「できない」「わからない」の意思表示をさせた後,そう考えた理由を読み上げさせます.その際指名する生徒は,そう考えた理由を書いている間に机間巡視してめぼしをつけておきます.
「金属も振動するので音は聞こえると思います」
「糸に比べて針金は振動しにくいので音は伝わらないのではないかと思います」
など,おそらく振動という言葉を使って説明する生徒が出てくるはずです.
この問いかけは,針金電話で音が伝わるかどうかを問題にしているのですが,実際に教師側のねらいは,振動と音が結びつけられているかどうかを問題にしなければなりません.
主要な考えが発表された後に,もう一度予想を修正させます.そして「できる」「できない」「わからない」の意思表示を挙手で全員にさせます.意見を変更した者がいればどうして変更したのかを言わせるとよいでしょう.
「〇〇さんの意見を聞いて,そう思いました」など,クラスメイトの意見に対する賞賛なども出てくるはずです.
「じゃ,みんなで確かめてみましょう!」と言って針金電話を渡します.
そうすると争うように確かめ始めます.
「聞こえるぞ!」と思わず叫ぶ者や,針金を触って振動しているかどうか確かめる者などが出てきます.
その後,この実験からわかったことをみんなでノートに記録させます.
議論がうまくいっていれば,ほとんどの生徒は「針金も振動するので針金電話で会話ができた」といった,振動と音を関連づけた記述ができるでしょう.
この授業のよいところは,教師が音は振動によって伝わるということを一度も教えていないという点にあります.しかも,糸よりも振動しにくそうな針金を持ち出すことで,針金が振動するかどうかに議論が集中することで,その後の実験において何を観察しなければならないかが分かった上で実験させている点にあると考えます.その証拠に生徒の中に必ず針金の振動を確かめる者が現れるはずです.
どうしてそう言えるかというと,大学生に対して同じような流れで授業をしてみると,大学生も同じような反応が返ってくるからです.
なお,このような授業展開は左巻健男先生が書いた「子どもをひきつける授業のやり方」(「新中学理科の授業 1時間ごとの授業展開と解説」,1992年,民衆社)に詳しく書かれています.また,針金電話を使うことは確か「ストップモーション方式による1時間の授業技術」(藤岡信勝・左巻健男編著,1990年,日本書籍)に書かれていたと思います.
いずれも私が中学校現場にいたときに非常にお世話になった本です.
ある年の理科教育法で大学生に対して模擬授業をさせたところ,「50mの糸電話で会話ができるか」という課題を出して生徒に予想させ,その後実際に確かめる授業を行った学生がいました.
大学にある長い廊下で50m離れて実験を行ったのですが,「聞こえるぞ!」と感動したように学生が叫んだあと,やはり糸が振動しているかを触って確かめていました.
大学生も中学生も同じように,未知なものに出合うと確かめてみたくなるものなのでしょう.
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