中学校理科や高等学校地学基礎などでは火山灰の観察が行われます.
みなさんは生徒たちに実際に火山灰を観察させたことがあるでしょうか?
という私も理科教員として30年近く中学校現場にいましたが,この観察を行った回数は0です.その理由は,火山灰の観察の経験がなく,生徒たちに火山灰に含まれる鉱物をきちんと見せられるのか?,そして火山灰中に含まれる鉱物の種類が説明できるのか?などに自信がなかったからです.
もし,私と同じような理由で火山灰の観察をあきらめている先生がいらっしゃれば,ぜひ赤玉土を使った火山灰の観察をお勧めします.簡単に次の写真のような鉱物を見ることができます.
赤玉土中の鉱物類
私が赤玉土にこだわる理由の一つは,写真を見ていただいてわかるようにきれいだからです.この写真の中で緑色やビールビンのような色で輝いて見えるのは輝石です.輝石はその名の通り輝いているのです.また,赤玉土中の輝石類は自形を保持したものが多いのも特徴です.
それに比べて理科教科書などによく紹介されている鹿沼土の火山灰には,緑色をした輝石がほとんど含まれず,赤玉土よりも少し地味に見えます.含まれる輝石類も自形ではないものがほとんどです.自形でない鉱物が多い理由は,おそらくその後の風化等によるものでしょう.
鹿沼土中の鉱物類
ここで自形という言葉が出てきたので少し説明しておきます.鉱物は一般に一定の化学組成をもつ無機質で結晶質な物質です.すなわち,種類によって固有の形=自形が決まっているのです.
なぜ火山灰中に自形の鉱物が見られるのかは,ガーネット(斑晶とは何か)のページを見てもらえるとわかると思いますが,火山灰中に含まれる鉱物が,周囲が液体のマグマだった時にマグマだまり等で結晶化したものだからです.火山岩中の斑晶と同じです.
また,この鉱物固有の形を使って分類を行いますので,自形が保持されているかどうかは,火山灰の観察において非常に重要になってきます.
輝石のなかまの自形
また,赤玉土と鹿沼土を比べてみると,処理の仕方において若干赤玉土の方がやりやすいという点も私がお勧めする理由です.
どのような処理をしなければならないかというと,椀掛けという処理です.
教科書などではこのように図示されていますが,なかなか難しそうで私も手をつけずにいました.
椀掛け法(啓林館:未来へひろがるサイエンス1より)
椀掛けをやってみてわかったのですが,鹿沼土の方が硬くてなかなかすりつぶしにくいようです.その点,赤玉土は結構柔らかくて作業がしやすく感じました.また,椀掛けはやってみると案外楽しいもので,生徒たちも興味を持って取り組んでくれるのではないかと思っています.
ただし,赤玉土に問題点もあります.赤玉土は鹿沼土の直上に分布するロームを乾燥させた粒状のものですが,このロームは火山灰だけでなく周囲の様々な土砂などが混ざってできたものです.その意味で直接的に火山灰だとは言い切れないということです.しかし,主体は火山灰だということには違いありません.
一方,鹿沼土は群馬県の赤城山(赤城火山)が約4.4万年前に噴出させた火山灰です.おそらくこの点が,鹿沼土が教科書に載せられる要因になっているのだと推測できます.
こう考えると,今なら火山灰の観察に2時間を当てようと思っています.1時間は赤玉土から火山灰を取り出す時間.そしてもう一時間は火山灰中の鉱物観察です.
最後に赤玉土から火山灰を取り出す方法を私がつくった動画で紹介することにします.まず,椀掛けを行い,火山灰を取り出してみて,ルーペや実体顕微鏡で覗いてみてください.きっと火山灰に興味がわくはずです.なお,動画では最後に超音波洗浄機を使って火山灰を洗っていますが,そこまでしなくても十分にきれいな火山灰を見ることができます.
赤玉土から鉱物を取り出そう!
次回は,赤玉土の中の鉱物の分類についてお話させていただきます.
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