今から30年以上前の話ですが,当時大学生であった私は卒業論文のテーマに「コウモリ」を選びました.私の地元には,コウモリが棲めるような自然にできた洞窟はありませんでしたので,コウモリを探してたくさんの人工の隧道に潜った記憶があります.
そのおかげでコウモリの成体の標本を今も持っています.また,コウモリの胎児の成長を調べていたので,胎児の標本も持っています.
中学校では「生物の種類の多様性と進化」という単元で,「現在の多様な生物は過去の生物が長い時間の中で変化して生じてきたものであることを体のつくりと関連づけて理解する」ために,相同器官について学習します.その際には,いつもコウモリの翼の想像図を生徒に書かせ,その後に標本を見せる授業をしていました.
大学教員になった今でもこのコウモリの標本は活躍しています.つい先日も私が担当する授業で,大学生を相手にこの標本を使った中学校の授業展開の一例を示しました.
まず全員にコウモリの翼の部分の骨格を想像させ,何人かにそれを発表させました.最初の想像図はほとんどが「これが大学生か?」というものでした.意見交流をした後に,もう一度その想像図を修正させます.今度はまあまあの想像図が書けた学生が多いようです.「コウモリも哺乳類だ」という意見が大きく役立ったのでしょう.
そしてコウモリの標本の登場です.リモートの授業であったので画面上でしたが,学生たちはしっかりとコウモリの骨格を確認していたと思います.
この授業では欲張ってコウモリの胎児も見せました.発生の初期はコウモリらしさはなく,他の哺乳類とほとんど見分けがつきません.しかし,成長するに従って,徐々に指の骨が伸び,膜がはってくるのがわかります.
これらの観察の後,本単元のねらいと結び付けていきました.コウモリの翼の観察や胎児の成長の様子の観察は,「生物の種類の多様性と進化」という単元の学習で,陸上の哺乳類であったコウモリが長い歴史の中でコウモリらしさを身につけていったことを示す教材としてとても有効だと感じます.
また,その後の感想の中に次のようなものがありました.
「コウモリの実物を見ることができれば,こんなにも心がときめくのかと自分で実感することができました.そのことから,自分が普段の生活では見るけれど,詳しくは知らないものを教材にするのがよいと考えました」
授業を受けて「心がときめいた」と言われたことは初めてです.しかし,その理由をしっかりと見極めなくてはなりません.この文章からすれば,コウモリの実物を見ることができたことで心がときめいたことがわかります.これがコウモリの標本ではなく,写真やイラストだったらこのような感想が生まれたでしょうか?
理科において実物を見せることの大切さをあらためて実感した次第です.
追加でもう一つコウモリの標本を使った授業を思い出しました.
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