これまで2回自作顕微鏡カメラの作り方について説明してきました.この顕微鏡カメラをどのように使えば学習効果が高まるでしょうか?
その一つは,教師が今現在顕微鏡下で観察している自然をプロジェクターや電子黒板に提示し,実物を使って解説等ができることにあります.顕微鏡を覗くとこんな素晴らしい世界が広がっているということをリアルに生徒に伝えることができるだけでも生徒の観察意欲は高まるものです.
また,生徒が観察している内容を直接把握できますので,観察内容に対する評価が適切に行える効果は高いと考えられます.「この部分をしっかりと観察してごらん」とか「よく見つけたね!」など,これまでの顕微鏡観察ではできなかった生徒とのやり取りが実現するはずです.
さらに私がお勧めするのは,ペア顕微鏡観察です.ペア顕微鏡観察とは,PCに写し出された顕微鏡画像をペアで覗き込み,与えられた課題に挑戦していく学習法です.
ペア顕微鏡観察をしている様子
ここで紹介するのは大学生対象に実施した花粉化石の分類です.花粉は非常に丈夫な殻を持っており,何万年も分解されずにその形をとどめることができます.花粉化石は,一部の中学校の理科教科書でも微化石の一種として紹介されているれっきとした化石のなかまなのです.
今回観察したのは,約1500万年前の湖の堆積物から採取した花粉化石です.1500万年もの間,その形をとどめているのには本当に驚かされます.また,花粉化石を調べることで,その周辺の植生もわかりますし,そこから古気温も何となくわかってくるのです.化石といえば,貝類やアンモナイトなどの大型化石を思い浮かべるかもしれませんが,花粉化石などの微化石は圧倒的にその数が多いことから,ひじょうによい研究対象とされています.
下の写真(中央にある花粉化石)は,この約1500万年前の堆積物から発見したシナノキ属の花粉化石です.1500万年前の植物はほとんど今と同じ植物と考えればよいので,現生の花粉の分類法が使えるのです.
ただし,ほとんどの学生は本物の花粉を見たことすらありませんし,また,400倍という倍率で観察しなければならない難しい観察でありました.
そこで活躍したのがペア顕微鏡観察です.ペアでPC画面を覗きながら「あ~でもない.こ~でもない」と議論しながら,目的の花粉化石を探していくのです.
このときの学生たちの意識を調査したところ,とても目についたのは観察が楽しかったという感想です.その「観察の楽しさ」がどのような意識と結びついているかも調べると,下の図のような相関関係が浮かび上がってきました.
詳しい説明は省きますが,「観察の楽しさ」を感じた多くの学生は,それとともに「観察に対する興味」,「やる気」,「集中力」も高まっていました.また,「観察の楽しさ」が「観察の正確性」と結びつき,さらにそれが「花粉・胞子化石の発見率」と結びついているようでした.まとめると,ペア顕微鏡観察は楽しいだけではなく,観察の正確性も高まるということがわかりました.
もし,みなさんもクラスの生徒数の半分の数だけ顕微鏡カメラが手に入るようであれば,ぜひペア顕微鏡観察を実施してみてください.ただし,この観察法が効果を発揮するのは,難易度がある程度高い観察に限ります.難易度が高いからこそ,ペアでの助け合いなどの活動が高まるからだと考えられます.
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